機械指令から機械規則へ 主な変更点のまとめ
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機械規則(EU)2023/1230は、2009年から使われてきた機械指令2006/42/ECに代わり、2027年1月20日から適用されます。
機械指令は2006年に採択されたため、2008年に整備された新しい法的枠組み(NLF)よりも古く、低電圧指令やEMC指令が2014年にNLFへ整合された後も、旧来の構成のまま残っていました。機械規則は、経済事業者の義務、適合性評価のモジュール、ノーティファイドボディ、市場監視とセーフガード手続などをNLFに合わせて整理し直したものです。必須安全衛生要件の骨格は指令から引き継がれていますが、指令から規則への格上げ、デジタル化・AIへの対応、サプライチェーン全体の義務など、変更は多岐にわたります。
この記事では変更点の全体像を整理し、詳しい内容は各テーマの記事と条文対訳へ案内します。条文ごとの対応は条文対照表を参照してください。
3行でわかる主な変更点
- 第三者認証が必要な機械が変わる:機械学習を使った安全機能を持つ機械・安全部品などが附属書I Part Aに入り、整合規格を満たしていてもノーティファイドボディの関与が必須になりました。
- デジタル時代の安全要件が加わる:外部からの接続や介入による破損で安全が損なわれないための保護、自己進化する挙動への対策、自律移動機械の要件が附属書IIIに追加されました。
- 書類と関係者の義務が変わる:取扱説明書をデジタルで提供できるようになった一方、輸入業者・販売業者・改造を行う者の義務が明確に定められました。
1. 適用日と経過措置
| 日付 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 2023年7月19日 | 発効。指令に従って上市された製品にも、規則第VI章(リスクのある製品への対応手続)を適用 | 第52条、第54条 |
| 2024年1月20日 | ノーティファイドボディの届出に関する規定(第26条〜第42条)の適用開始 | 第54条(a) |
| 2026年10月20日 | 加盟国が罰則の規定を欧州委員会に通知する期限 | 第50条 |
| 2027年1月20日 | 規則全体の適用開始。機械指令の廃止 | 第51条、第54条 |
| 2028年8月2日 | 高リスクAIシステムに関する安全衛生要求事項(委任法で附属書IIIに追加)の適用期限 | 2026/1744 第3条 |
経過措置(第52条):
- 2027年1月20日より前に機械指令に従って上市された製品は、その後も市場で提供できます。判断の基準は個々の製品を上市した日であり、型式の設計日や認証の取得日ではありません。
- 機械指令にもとづくEC型式審査証明書は、その有効期限まで有効です。ただし、2027年1月20日以降に上市する製品は機械規則に適合していなければならず、証明書が規則の要件をカバーしているかは別途確認が必要です。
- 機械規則にもとづくEU型式審査証明書について、機械のノーティファイドボディの欧州調整グループ(NB-M)は、2027年1月20日より前に認証の決定がされた場合でも、証明書を使えるのは2027年1月20日からであり、最長5年の有効期間は証明書の発行日から数えるとしています(RfU 00.518)。
2. 指令から規則へ
規則は加盟国の国内法に置き換える手続を経ずに、EU全域で同じ条文がそのまま適用されます。国ごとの国内法の違いを気にする必要がなくなる一方、条文の解釈が直接問われることになります。
3. 対象範囲と定義の変更
- 関連製品:機械に加えて、交換可能な装置、安全部品、吊具、チェーン・ロープ・ウェビング、取外し可能な機械式動力伝達装置を「関連製品」としてまとめ、半完成機械と合わせて規則の対象としています(第2条)。
- ソフトウェアも安全部品に:安全部品の定義に「ソフトウェアを含む物理的又はデジタルの部品」が明記されました(第3条第3号)。安全機能を担うソフトウェアを単独で上市する場合も対象になります。
- 大幅な改造:上市後に製造業者が想定していない物理的・デジタル的な改造で、新たなハザードを生じさせ又はリスクを増加させ、追加の保護装置や安定性・強度の対策を必要とするものを「大幅な改造」と定義しました(第3条第16号)。
4. 経済事業者の義務
機械指令は主に製造業者の義務を定めていましたが、規則は新しい法的枠組み(NLF)に沿って、サプライチェーン全体の義務を規定しています。
| 対象 | 主な義務 | 条文 |
|---|---|---|
| 製造業者 | 適合性評価、技術文書の作成と10年間の保管、取扱説明書、EU適合宣言書、CEマーキング | 第10条、第11条 |
| 認定代理人 | 委任された業務(技術文書の保管、当局への協力など)。技術文書の作成は委任できない | 第12条 |
| 輸入業者 | 製造業者が義務を果たしたことの確認、自社の名称・連絡先の表示 | 第13条、第14条 |
| 販売業者 | CEマーキングや書類の有無の確認、不適合品を流通させない | 第15条、第16条 |
| 自社名義で販売する輸入業者・販売業者 | 製造業者とみなされる | 第17条 |
| 大幅な改造を行った者 | 改造した機械について製造業者とみなされ、適合性評価をやり直す | 第18条 |
すべての経済事業者は、製品の供給元と供給先を10年間記録しておく必要があります(第19条)。
なお、自分の使用のために大幅な改造を行う非職業的な使用者は、製造業者とはみなされません(第18条第3段落)。
5. 高リスク機械と適合性評価
機械指令の附属書IV(23区分)は、機械規則の附属書IでPart AとPart Bに分かれました(第25条)。
| 区分 | 該当するもの | 適合性評価 |
|---|---|---|
| Part A(6区分) | 取外し可能な機械式動力伝達装置とそのガード、車両整備用リフト、火薬式固定工具、機械学習を使って安全機能を確保する安全部品・組込みシステム | 第三者が必須:EU型式審査+型式適合(B+C)、完全品質保証(H)、単品検証(G)のいずれか |
| Part B(19区分) | 木材加工機械、プレス、射出成形機、人の昇降装置、人体検知保護装置、安全ロジックユニット、ROPS・FOPSなど | 整合規格又は共通仕様を完全に適用した場合は内部生産管理(A)も可。それ以外はB+C、H、Gのいずれか |
| 附属書Iに該当しないもの | 上記以外の機械・関連製品 | 内部生産管理(A) |
機械指令では、附属書IVの機械でも整合規格を完全に適用すれば自己宣言が可能でした。Part Aに移った区分にはこの選択肢がないため、該当する製品は早めにノーティファイドボディを確保する必要があります。区分ごとの対応は条文対照表にまとめています。
機械学習を使う区分(Part Aの第5項・第6項)については、NB-Mが次の見解を示しています。
- 第6項(機械学習による安全機能を持つ組込みシステムを有する機械)でノーティファイドボディが評価する対象は、機械全体ではなく組込みシステムのみです(RfU 00.513)。
- これらの区分を担当する機械のノーティファイドボディは、AI規則の要件の一部(第31条)を満たす必要がありますが、AI規則上の(完全な)ノーティファイドボディである必要はありません(RfU 00.514)。ただし、このRfUは下記9.のAIデジタルオムニバス規則より前のものです。改正後は機械にAI規則の第43条(3)などが適用されなくなったため、今後見直される可能性があります。
また、整合規格がない場合や不十分な場合に、欧州委員会が実施法で共通仕様を定められるようになりました。共通仕様に適合すれば、その範囲で必須安全衛生要件への適合が推定されます(第20条)。
6. 必須安全衛生要件の主な追加
必須安全衛生要件は、機械指令の附属書Iから機械規則の附属書IIIに移り、次の項目が追加・強化されました。
- 1.1.9 破損に対する保護:他の機器との接続や遠隔操作によって危険な状態にならないこと、安全に関わるソフトウェアとデータを識別し、正当・不正な介入の証跡を残すことなど、破損によって機械の安全が損なわれないための要件です。対象はあくまで安全であり、情報セキュリティ全般を求めるものではありません。
- 1.2.1 制御システムの安全性と信頼性:第三者による合理的に予見可能な悪意ある試みへの耐性、介入の記録や上市後に更新した安全ソフトウェアの版の記録(5年間)を求めています。自己進化する挙動やロジックを持つ機械には、定められたタスクと動作範囲を超えて動作しないこと、安全に関わる意思決定のデータを記録し1年間保持すること、常に修正できることを求めています。
- 適合しない場合の扱い:安全部品について1.1.9及び1.2.1の要件を満たせない場合、ノーティファイドボディはEU型式審査証明書を発行しません。NB-Mは、製造業者が影響を分析し、要件を満たすために必要な保護用の機器(ハードウェア・ソフトウェアの版を含む。)を特定した上で、安全部品と保護用の機器を組み合わせたシステム全体として評価を受け、その情報を取扱説明書に含める方法を示しています(RfU 11.076)。
- ログの記録:上記のとおり、安全に影響を及ぼすソフトウェアなどのデジタル要素を持つ機械では、介入の証跡や安全ソフトウェアの版のロギングが必要です。設計段階で記録の仕組みと保存期間を組み込んでおく必要があります。
- リスクアセスメント:機械学習などにより上市後に挙動が変化する場合、その変化として予見できるハザードもリスクアセスメントに含めます(一般原則)。
- 人と機械の相互作用:機械との相互作用による心理的ストレスへの配慮(1.1.6、1.3.7)。
- 自律移動機械:オペレーターが常時関与しない自律モードを持つ移動機械に、遠隔で停止・始動などを行う監視機能を求めています(3.2.4)。
7. 取扱説明書、EU適合宣言書、技術文書
- デジタル取扱説明書(第10条第7項):取扱説明書はデジタル形式で提供してもよく、従来どおり紙で提供することもできます。ただし、欧州委員会のデジタル化と共通仕様に関するオムニバス法案(2025/0133(COD))の流れを受け、今後はデジタル提供を基本とする方向に動いていくと見込まれます。デジタル形式で提供する場合は、アクセス方法を機械等に表示し、製品の想定寿命の間かつ上市後少なくとも10年間オンラインで公開しなければなりません。購入時に使用者が求めれば、紙の取扱説明書を1か月以内に無償で提供します。非職業的な使用者が使う可能性のある機械では、安全に関わる重要な情報は紙で提供します。
- EU適合宣言書(第10条第8項、第21条):製品に添付するか、取扱説明書にインターネットアドレスや機械可読コードを記載して提供できます。様式は附属書Vによります。
- 技術文書(第10条第3項、附属書IV):10年間保管します。必要な場合、当局の理由のある要求に応じてソースコードやプログラミングロジックを提供することが求められます。
移行期間中の対策:上市の判断は個々の製品ごとに行うため、2027年1月20日をまたいで出荷される製品では、どちらの法令にもとづく上市になるかが出荷の時期によって変わります。適合宣言書などの自己宣言書は、機械指令と機械規則を併記するといった対策が必要です。併記する場合は、機械規則の要件(附属書IIIの追加要件や、附属書I Part Aに該当する場合のノーティファイドボディによる適合性評価など)を実際に満たしていることが前提です。取扱説明書と技術文書も、機械規則の要件に合わせて切替日までに改訂しておきます。
8. 整合規格と公式ガイドの状況(2026年10月時点)
- 整合規格:機械規則の整合規格の官報掲載は当初の予定より大幅に遅れており、2026年末になる見込みです。現時点では、機械指令の整合規格の最新版などが機械規則の整合規格になることが想定されます。
- 破損に対する保護:附属書IIIの1.1.9及び1.2.1のうち破損に対する保護に関わる要素については、prEN 50742が整合規格として準備されています。産業用制御システムのセキュリティ規格であるIEC 62443シリーズは機械の安全確保には過大な要求となるため、機械の安全に必要な範囲に絞って開発されたものです。
- 公式ガイド:欧州委員会による機械規則の適用ガイドも作成中ですが、公表時期は未定です。当面は、機械指令適用ガイド(第2.3版)の考え方を延長して解釈しておく必要があります。指令から内容が引き継がれている条文・要件については、条文対照表から機械指令側の条文と同ガイドの解説をたどれます。
9. 関連する他の法令
AI規則:AIデジタルオムニバス規則(EU)2026/1744(2026年7月27日発効)により、機械規則はAI規則の附属書I Section AからSection Bに移されました。機械の安全部品としてAIを使う場合も、AI規則のうち適用されるのは第6条(1)(高リスクの分類)、第60a条(実環境試験)、第102条〜第112条に限られ、AI規則の高リスク要件や適合性評価は直接には適用されません。代わりに、機械規則に次の改正が加えられました(2026/1744 第3条)。
- 欧州委員会は、AI規則の高リスクAIシステムの要件(第III章第2節、第17条・第19条・第72条・第73条)を反映した安全衛生要求事項を、委任法で機械規則の附属書IIIに追加します。2028年8月2日までに適用されます(第8条)。
- 機械規則にAI関係の整合規格・共通仕様ができるまでは、AI規則の整合規格・共通仕様への適合で附属書IIIのAI関係の要求事項への適合が推定されます(第20条第10項)。
つまり、機械に組み込まれたAIは、機械規則の必須安全衛生要件と適合性評価の中で扱われることになります。
低電圧指令・EMC指令・RED:電気・電子機器を含む機械には引き続き並行して適用されます。